先のことは何も決まっていなかったけれど、ただただ、香りの仕事がしたい、香りが心の奥深くに伝えてくれる、なにか大切なものを多くの人に伝えたい、その思いだけでした。
そして、退職前の最後の五月の連休に、久しぶりの海外旅行をすることにしました。頭を空っぽにしてきたかったのです。
知人からアメリカのセドナへのツアーのことを教えてもらったとき、セドナがどんな所かもよくわかっていませんでしたが、
“行きたい…!”
即座にそう思ったのでした。パスポートの有効期限が切れる寸前でした。
ツアーでは、往きの飛行機でお隣りの席に座ったのが縁で、その後「史さん」という女性と行動を共にすることになりました。その史さん、職業を聞くと、セラピスト、といいます。
”これは、ご縁がある人かもしれない…”
Ayako は少しわくわくしながら、ツアー中は史さんにいろいろたずねました。史さんはとても穏やかにやさしく、自分の働いている職場や仕事内容について、いろいろと教えてくれました。
セドナはアメリカのフェニックスの空港からバスで約二時間ほど入ったところにあります。そこには、日本とはまるで違う広大な景色が広がっていました。
目の前に迫る赤土の岩のような山々、空気は乾燥してすっきりと透き通っているようです。そして植物たちはみなのびのび、すくすくと育っているように見えました。建物は自然にとけこむよう、高さや色など、配慮されています。
お花たちは雑草とは思えないほど可愛く、そしてしっかりと生えていて、思わず写真をたくさん撮っていると、今度はサボテンが、
「私も撮って!」
と言ってる気がしました。どの植物たちもみんな、自己主張していました。
畑の植物も生き生きと育っていて、お店で食べる野菜サラダのみずみずしかったこと。
「野菜が甘〜い!」
みな口々に叫んで、たくさん食べていました。
Ayako は初めての土地だという気がしなくて、そればかりか、心の中にずっと描いていた自然の姿が、ここだったような気さえしていました。
翌日から、山々をハイキングしたり、川辺でお昼寝したり、自然を十分に満喫しながら歩き回る日々が始まりました。
セドナの空は真っ青で、見上げていると迫ってくるような迫力があります。
それはある晴れた日のことでした。みんなで宿の外で日向ぼっこをしていると、びっくりするような光景が空に広がりました。太陽のまわりが大きく黒い円となり、その縁が虹色に輝いています。日本でもたまに見かけることがありますが、比較にならないくらい、黒さも虹の色も大きさも、ド迫力です。
ツアー中運良くインディアンのお祭りが開催され、みんなで見に行ったときのこと。その日の空も、忘れられない迫力でした。青い空はどこまでも濃く深く、浮かぶ雲たちは青い空とのコントラストが際立ち、どれも強烈な存在感で、まるで空の雲が一挙に集合してきたように見えました。
居住区から集まったインディアンの人たちは、部族毎に色とりどりの衣装を着けて、会場に並んでいました。それも迫力あり、です。
音楽が始まり、大柄で日に焼けたインディアンたちが踊りだすと、その場は一瞬にして厳かでダイナミックで、壮観な光景が広がりました。見ているだけで神妙な気持ちになってしまうから不思議です。
途中、一般の人たちも踊りに参加できる時間があったので、Ayako たちも踊りに加わることにしました。
踊りの輪の中でインディアンの人たちの動きに合わせステップを踏んでいると、最初は照れくさかったのですが、だんだんと楽しくなり、自然に手足が動き出すようになっていました。周りでは、インディアンの曲が、重厚で且つ、リズム感があって、迫力を持って響き渡っています。
“まるでこんな風に踊っていたときがあったみたい…”
なんて思ったりしました。
夜は夜で、毎日歩きつかれてくたくたになりながら、宿の庭にある小さなプールで泳ぎました。15メートルくらいの小さなプールに半分浮かぶようにプカプカ浸かって上を眺めれば、そこには満天の星空。外灯もないセドナの夜空はまるで天然のプラネタリウム、宇宙が見せてくれるショーのようです。
“ここから宇宙につながっているんだな…”
壮大なスケールだと思いました。
明日はフェニックスに戻るという日、現地の案内役をしてくれたスティーブさんという人が、みんなに一人ずつ、おみやげを手渡してくれました。
1本ずつ色や形が少しずつ違う可愛いガラス瓶を、スティーブさんは無作為に選び、渡しながら、一言ずつアドバイスメッセージをくれます。セドナの地はパワースポットと呼ばれ、感性の鋭い人やアーティストたちがたくさんいるようですが、スティーブさんもとても直観力の鋭い人で、そのときも一人一人に、直感で一番ふさわしい言葉をくれているようでした。
「植物の力を借りて、人と自然を癒していってください。」
これは、Ayako に言われた言葉です。びっくりしました。スティーブさんには、アロマの話はまったくしなかったからです。同時に、とてもうれしくなりました。
”これから、私はアロマと共に生きるんだ”
決意を新たにしながら、帰国の途についたのでした。
ずっと求めていた自然の姿